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飯田哲也「RE100への途」

容量拠出金から透けて見える日本の電力市場の歪み

2024.04.30

この4月から容量拠出金が始まった。電力会社によっては3円/kW時もの負担増となるが、問題の本質はそこではない。たとえば以下の記事(※1)には「小売競争がゆがむなら」と仮定形で書かれているが、仮定どころか、競争のゆがみは容量市場の最初から織り込まれているのだ。旧一般電気事業者の負担は事実上ゼロであるのに対して、新電力だけが負担する構造的な不公正にある。これを期に、あらためて「容量市場」を入口として、日本の「ガラパゴス電力市場」を再考してみたい。
 

■「容量市場」とは何か
 

容量市場を正しく理解している人は少ない。4年前に以下の論考 (※2)をまとめており、詳しくはそちらを参照していただきたい。

 最初に理解しておくべき重要なポイントは、容量市場とは大きなカテゴリーである「容量メカニズム」の一形態に過ぎず、他にもさまざまな仕組みがあるという点だ。しかし日本では、政治家はおろかメディアや多くの専門家も容量市場の全体像を充分に理解しないまま、ひっそりと容量市場に決め打ちして導入された経緯がある。

容量市場を含む容量メカニズムを理解するには、その細かな内容に立ち入る前に、歴史を遡って、その誕生から眺める必要がある。大きく3段階ある。

 第1段階は、1990年代からの電力市場自由化(とくに発送電分離)である。これによって、伝統的な電力会社(垂直統合かつ地域独占)では認識されていなかった問題が浮上してきた。具体的には、電力の安定供給、とくに稀にしか起きない需給ひっ迫時のための「余分な発電所」を誰が維持するのか、という問題だ。「余分な発電所」は、稀にしか動かないため、普段の収益は期待できない。しかし、「余分な発電所」が無い場合、いざという時に大停電を起こす恐れがある。「コモンズの悲劇」である。そこで電力市場自由化の進展と並行して、「いざという時のための余分な発電所」を備えるための様々な仕組み=容量メカニズムが編み出されてきた。

 第2段階は、2010年頃からの風力発電と太陽光発電の急激な拡大によるものだ。これらは政策的にも気候変動やエネルギー自給のために最優先されている上に、限界費用がほぼゼロである。電力市場は限界費用が安い順(メリットオーダー)で入るため、「いざという時のための余分な発電所」が稼動する確率がますます下がるため、容量メカニズムが、より大きな問題としてクローズアップされてきた。
 



(※1)日経エネルギーNext電力研究会「2024年度の容量拠出金額を検証する、小売競争がゆがむなら容量市場は失敗だ」
2024年4月22日 https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02421/041700041/#?ST=print

(※2)飯田哲也「「容量市場」とは何か〜原発・石炭・独占を維持する官製市場」
2020年10月27日 https://energy-democracy.jp/3280

 

第3段階は、ここ数年の事象で、テクノロジーによる転換である。太陽光・風力のさらなるコスト低下、蓄電池の急激なコスト低下と性能向上、デジタル技術の進展による需要側応答(ディマンド・リスポンス、DR)や仮想発電所(ヴァーチャルパワープラント、VPP)などが実用レベルになってきたことで、容量メカニズムをこれらに委ねる方向性が登場してきた。フランス、カリフォルニア、豪州などは蓄電池とVPPを主力とし、デンマークは地域熱供給用の温水ボイラーを容量メカニズムで活用している。
 

■日本の「容量市場」の歪み
 

 日本の「容量市場」には、根本的に5つの歪みがある。

第1の歪みは、競争環境の不公平さである。日経記事にあるような仮定形どころではなく、最初から構造的に歪んでいるのだ。それがこの4月からの容量拠出金で露呈した。電力小売会社は容量拠出金を電力広域的推進協議会(OCCTO)に出す。この時点では、旧一般電気事業者の小売部門も新電力も「公平」である。ところが、その容量拠出金は、容量市場で落札した発電所に分配される。発電所の8割を旧一般電気事業者が所有している現実を踏まえれば、8割の資金が旧一般電気事業者の発電部門に還元される。つまり、OCCTOは経由しているものの、「右ポケット」(旧一般電気事業者の小売部門)から「左ポケット」(同発電部門)に資金が移動しているだけと言っても良い。
 

第2の歪みは、容量メカニズムのさまざまな仕組みの中で、容量市場が最も高コストであることだ。電力市場の全域をカバーするため、必然的に高コストとなる。ドイツは、そのためにコストが数分の一で済む別の仕組み(戦略的予備力)を導入した経緯がある。第3の歪みは、脱炭素政策と逆行することだ。国は政策目的が違うと説明するが、国策であり国際合意でもある脱炭素政策に反することは政策矛盾でしかない。関連する第4の歪みは、新技術育成の視点がないことだ。蓄電池やDR、VPPを育成するために市場創造する視点があるべきだろう。
 

最後かつ最大の歪みは、そもそも日本に容量市場は、不要であることだ。発電も小売も8割を旧一般電気事業者が持ち、送配電会社も子会社という事実上の垂直統合が続いている。現状のままなら、容量市場も容量メカニズムも無用であり、従前のとおり、旧一般電気事業者に万が一の時の安定共有を義務づけたままでよい。それでは発展性がないため、少なくとも完全なる発送電分離を前提に、脱炭素と新技術育成を指向した、コスト効率的な容量メカニズムを導入すべきだろう。容量市場に固執するなら、完全なる発送電分離に加えて、発販分離もすべきである。
 

■「規制の虜」と電力市場

  上述したとおり、日本では、政治家はおろかメディアや多くの専門家も容量市場の全体像を充分に理解しないまま、ひっそりと容量市場に決め打ちして導入された経緯があるが、本稿で整理したとおり、最初から旧一般電気事業者に有利となるよう、歪められてきた。これは、福島第一原発事故に関する国会事故調査委員会報告書で知られるようになった「規制の虜」の可能性がある。「規制の虜」とは、規制する側が規制を受ける側の影響を受けてその意向に沿った政策やルールを作る現象だ。実際に、英国では、六大電力会社の「規制の虜」で容量市場が選択され導入されたと報告されている。

 容量市場に留まらず、太陽光発電の出力抑制や系統連系、30分同時同量など、日本の電力市場は、旧一般電気事業者による「規制の虜」現象で、大きく歪められている。今後、再エネ100%を目指す上で、その全体像から検証し見直すことは避けられないだろう。

 

 

 

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