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飯田哲也「RE100への途」

「1次エネルギー」が消えてゆく

2023.09.30

前回、今や世界では「太陽光・風力・蓄電池・EV・ヒートポンプ」という5本柱が、世界のエネルギー転換の軸となっていると伝えた。その流れに沿って、「1次エネルギー」という考え方そのものが廃れたものになり、不要になってゆきそうだ。

 産業革命以後の化石燃料中心の世界では、エネルギー資源(原子力ではウラン)が「1次エネルギー」と定義される(図1)。この一次エネルギーを電力や熱に転換したものが「2次エネルギー」、これを送配電などで利用者に送り届けた上で最終的に利用される段階のエネルギーを「最終エネルギー」(あるいは消費エネルギー)と定義している。さらに、実際に有効に使われるエネルギーを「有用エネルギー」と定義される。図にはないが、その先に、その有用エネルギーを用いて提供された「エネルギーサービス」(明るさ、部屋を温かく・涼しくする、ビールを冷やす、など)がある。
 

図1 一次エネルギー、2次エネルギー、最終エネルギー、エネルギー効用


 電力を直接生み出す再生可能エネルギーが支配的になり100%に向かっていくとすれば、「1次エネルギー」という考え方は廃れてゆき、やがては無用になっていくかもしれないと、Kevin Pahudらは「1次エネルギーを越えて」と報告している※1。「1次エネルギー」とは、有用エネルギーやエネルギーサービスから見れば6割上の損失を生させる、効率の悪い化石燃料システムの考え方だからだ。

図2の米国の例で見るとおり、発電で65%を損失し、交通ではじつに79%を損失している。これらが太陽光や風力など電力(最終エネルギー)を直接生み出す再生可能エネルギーに置き換われば、その2〜3倍の化石燃料を「節約」することになる。つまり、太陽光や風力はそれ自体が脱炭素になるだけでなく、きわめて「エネルギー効率的な技術」でもあるということになる。
 

図2 米国のエネルギーフロー(2021年、単位quad BTU)

※1Kevin Pahud, et.al., “Beyond primary energy: the energy transition needs a new lens”, Zenon Research, July 2023, https://www.zenon.ngo/insights/beyond-primary-energy-the-energy-transition-needs-a-new-lens

 これは、エネルギー統計上も、ズレや混乱をもたらす恐れがある。現状は、再エネ比率は10%程度と低いが、増えていくにつれて「1次エネルギー換算」の方法によっては大きなズレが生じる(図3)。太陽光や風力の発電量を1次エネルギーに「換算」する方法は3通りある。仮想的に一次エネルギー(化石燃料)に置き換える「代替法」(Substitution)、1次エネルギーから2次エネルギーへの変換効率を1とする「直接換算法」(Direct Equivalent)、その変形版で非燃焼系の発電源ごとに変換効率を調整する「物理エネルギー量」(Physical Energy Content)の3通りで、いずれも一長一短がある。

図3 一次エネルギー統計の換算方法によるズレ

 一次エネルギーへの換算では、代替法が正確だが、そもそも太陽光や風力使ってもいない空想的な「発電ロス」を加えることへの疑問がある。直接換算法は原子力や地熱など現実に発生している損失を無視しており、物理エネルギー量でも同様だ。結局、そもそも「一次エネルギー」という考え方そのものが無用になりつつあるのであり、太陽光や風力が支配的になってゆく時代は、最終エネルギーや有用エネルギーで見ることが妥当と言うことになる。

 電気自動車(EV)やヒートポンプに見るとおり(図4)、電化そのものが効率を飛躍的に高めることができる。太陽光発電や風力発電という再生可能エネルギーへの転換と社会全体の電化の進展は、化石燃料とともに「1次エネルギー」という考え方そのものを消滅させようとしている。

 

図4 電気自動車(EV)やヒートポンプの効率の高さ

 

 

 

 

 


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