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飯田哲也「RE100への途」

新しい「再エネ100%ナラティブ」が必要だ

2023.08.30

「ナラティブ」(narrative)という言葉がある。日本語ではあまり聞き慣れない英語だが、直訳すると「物語」という意味だ。「ナラティブ」について幅広く調査した大治は「さまざまな経験や事象を過去や現在、未来といった時間軸で並べ、意味づけをしたり、他者との関わりの中で社会性を含んだりする表現」(注1)と定義している。これでもまだ分かりにくいかもしれない。もう少しかみ砕いてみると「あるテーマに関して、その時代のその社会で共有されている『大きな物語』」と言っても良いかもしれない。

このナラティブがエネルギーとどのような関係があるのだろうか。半世紀前の石油ショックの時は、「エネルギー危機」が国全体で共有したナラティブとなり、官民が省エネルギーと代替エネルギーとしての再生可能エネルギー開発へと突き進んだ。12年前の東京電力福島第一原発事故の直後は「原発ゼロ」が国民全体のナラティブとなった。その後、その「原発ゼロ」というナラティブは、やがて気候危機や脱炭素というナラティブに取って代わられた。

ことほどさように、ナラティブは移ろいやすく、とくに「お上意識」の強い日本では、国が「ナラティブの操作」している側面もある。たとえば、昨今の福島第一原発から放出開始された「ALPS処理水」がある。事態はまだ混沌としているが、日本の水産物を全面禁輸した中国に対する逆ギレ的な日本側の反応や、うっかり「汚染水」と発言して陳謝した野村農水大臣の顛末を見ても明らかだが、国とメディアが一体となって「処理水放出は安全、これを批判する中国はけしからん」というナラティブを国が誘導し、メディアがこれに積極的に加担している構図が見える。英語メディアでは、処理してもなお汚染している「処理水」は、「radioactive contaminated water」(放射能汚染水)と呼ばれており、「処理水」はあくまで「日本語ナラティブ」にすぎない。その「日本語だけに閉じたナラティブ」が、日本を危うくしている。

世界中で爆発的に拡大している再エネ(太陽光・風力・蓄電池)や電気自動車(EV)によって、世界的なエネルギーに関するナラティブは、急激に変わりつつある。2014年から始まったRE100などの再エネへの流れがますます加速し、今日では「太陽光・風力・蓄電池・EV・ヒートポンプ」という5本柱が、世界のエネルギー転換の主役中の主役として、「大きなナラティブ」の軸となっている。

 ところが日本では、その方向へのエネルギー転換から、現実としても遅れに遅れている。太陽光は2012年のFIT導入後の「太陽光バブル」で一時的に急激に増えたものの、風力発電は他の先進諸国から完全に取り残されている。EVについては、長く世界の自動車産業をリードしてきたトヨタが、水素燃料電池車とハイブリッド車に固執し、これに国も一体となってEV転換を後回しにしてきた結果、テスラや中国勢に、もはや追いつけないほどの遅れを取ってしまった。こうした要因の一つに、「日本語だけに閉じたナラティブ」があるように思われる。

再エネに関しては、12年前の東京電力福島第一原発事故のあと、原発に代わるエネルギー源として、国民から最も期待されたことは確かだ。そうした国民総意の期待を受けて、菅直人総理(総理)は、自らの総理の座と引き換えに、2011年8月に固定価格買取制度(FIT)の成案させた。翌2012年から始まった全量全種の再エネFITは、とりわけ太陽光発電の急激な普及をもたらしたが、反面、空前の太陽光発電バブルを生み出した。

日本中で太陽光発電のための「地上げ」が行われ、それが地域社会や自然保護団体からの反発を招いた。根源的には、制度設計のミスであると同時に、日本の行政の縦割りに起因するのだが、再エネ賦課金を抑制しようと国(経産省)はやっきとなり、折しも政権交替で原発復権を目指す自民党に戻ったこともあって、再エネ普及よりも電気料金抑制に政策の力点が置かれるようになった。再エネへの「接続義務」が定められたために、電力会社に連系申請が殺到したために、これを一時停止する「第1次九電ショック」が起き、「接続可能量」や高額の連系負担金、無制限無補償の出力抑制など、電力会社による再エネへの忌避へと繋がった。

 こうして、FITが反作用となって、日本では世界とはかけ離れた、ガラパゴス的な「再エネナラティブ」が生み出されている。「日本の太陽光発電の導入はこれ以上難しい」というものだ。その背景にあるのが、国(経産省)が常に出してくる「日本は既に世界第3位の太陽光発電設置国で、平地当たりの太陽光発電の比率は世界でダントツに高い」というものだ(図)。「これ以上、日本で太陽光を増やすことは難しい」と言外に伝えようとしているが、これは日本の太陽光が普及しない「政策の失敗」に対する「言い訳」にすぎない。

 

太陽光発電の導入困難さを暗喩する図

【出典】経済産業省「第41回 再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」2022年4月26日
 


事実、環境省による再エネ導入ポテンシャル評価では、日本の総電力需要量の数倍規模の太陽光発電のポテンシャルがあると推計できる(注2)。日本でも、「太陽光・風力・蓄電池・EV・ヒートポンプ」を軸とする、再エネ100%は充分に可能なのである。今こそ、日本でも新しい「再エネ100%ナラティブ」が必要な時だろう。

 

(注1)大治朋子「人を動かすナラティブ なぜ、あの「語り」に惑わされるのか」 毎日新聞出版2023年(Kindle位置No.192-194)
(注2)環境省「再生可能エネルギー情報提供システム[REPOS(リーポス)]」
https://www.renewable-energy-potential.env.go.jp/RenewableEnergy/29.html より

 

 

 


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