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飯田哲也「RE100への途」

RE100を目指す環境省脱炭素先行地域(その2) 申請計画策定の虎の巻

2022.08.30

今回の環境省・脱炭素先行地域で、再エネ100%(RE100)を求めている条件は、環境省が公表している交付金要綱[※1]によれば、大きく2つだ。まず、必須要件は、「民生業務部門の再エネ電力100%」だ。いわば、フィギュアスケートの「規定演技」と考えれば良い。もう一つは、『「民生業務部門の再エネ電力100%」以外での再エネ100%または脱炭素の取り組む』だ。こちらは、フィギュアスケートの「自由演技」と考えれば良いだろう。これら「規定演技」をきっちりとこなし、「自由演技」で尖ったものを示せれば、採択の可能性が高くなる。

 

なお、「規定演技」が民生業務部門に限定されているのは、産業部門が経産省の所管だからだろう。他にも、「余剰の再エネ電力を地域外で売却できるのは3割まで」(地域を越えるものは経産省所管)、「系統連系する太陽光は2MWまで」(系統は経産省所管)、「ボイラー建屋など建築物は補助対象外」(建築物は国交省所管)など、省庁間のデマケはきっちりと線引きされている。

 

さて、この脱炭素先行地域に採択されるには、どのような要素が必要か。これもフィギュアスケートの採点に倣って考えると、「量」「バランス」「質」「面」「地域課題」「実現性」が重要となる。

 

●「量」では、「規定演技」で導入する再エネ電力は、少なくとも10MW規模が必要となる。5年間で計50億円の交付金・総事業費換算では70〜80億円事業という枠から見た最低レベルと考えて良いだろう。ただし、わずか5年間という期間を考えると、現実的に導入が確実な再エネ電力はほぼ太陽光発電に限定され、しかもその系統連系は2MW(AC)に限定されるため、それ以外はすべて自家消費(オンサイトPPAを含む)する必要がある。

●「バランス」としては、再エネ電力・ZEBなど省エネ・再エネ熱利用・EVなどモビリティといった利用分野での拡がりや、中心となる再エネ電力の中でも太陽光以外もあれば加点が高くなる。

●「質」としては、新築よりも既築への取組の方が、より困難であることから評価が高い。技術面では、実用化されていない実証的な技術(たとえば水素など)は評価が低く、すでに実用化された技術の普及が評価される。また、全体として見た、脱炭素化の費用対効果も問われる。

●これらが、地域内できっちりと一定の「面」として先行地域に指定されていれば申し分ないが、離散的だったり、限定的であることが多い。とくに民間施設や住宅は申請段階で合意形成することが難しく、「面」で指定しても「実現性」が疑問視されるため、そのバランスが難しい。なお、申請主体となる公共施設は比較的に合意形成や実現性で確度が高いため、先行地域から外れた場所でも対象とすることが出来る、いわば「飛び道具」となっている。

●「実現性」は、上記の合意形成の面と、事業として実施可能かという2点がある。とくに、申請主体の自治体自らの事業実施は、事業実施の遂行能力や継続性も疑問視され、補助ウラの自己資金の予算計上が議会マターで確約されないため難しい。そのため、「自治体も関与する民間事業」(いわゆる三セク)として、金融機関等からの資金調達を含めた計画が期待される。

●最後の「地域課題」はもっとも重視される。再エネ導入が脱炭素化だけでなく、地域経済にも貢献し、さらに従来からの地域課題を解決する「一粒で3度美味しい」ものであれば、一気に加点される。

 

筆者が申請計画の策定支援した秋田県大潟村の脱炭素先行地域の計画[※2]には、第1回で採択された26地域の計画のなかでも、もっとも高く評価された計画の一つと聞いている。

干拓された村の成り立ちから市街地が一箇所に集約されていることから、村中心部全体を先行地域指定にできていることに加えて、再エネ電力(主に太陽光発電)の規模の大きさ(12MW)や既設ビルのZEB化(総事業費の4分の1規模)がバランス良く入っていることなどもあるが、何と言っても「地域課題」である大量のもみ殻を給湯暖房の温熱として利用し、地域熱供給(再エネ熱)という、高い次元の「自由演技」が、上記の「採点基準」で見ても、高く評価されたのだろう。

 

現在、第2回目の脱炭素先行地域の申請が締め切られ、その選考過程に入っている段階だ。第2回目は、第1回目の再チャレンジ組と新規の申請組、それぞれに準備期間があるだけ、より高いレベルでの競争になると考えられる。今度はどのような地域が選ばれてくるか、今から楽しみである。

[※1]に環境省「脱炭素先行地域 – 脱炭素地域づくり支援サイト」
https://policies.env.go.jp/policy/roadmap/preceding-region/

[※2]大潟村の計画は環境省サイトで公表されている「自然エネルギー100%の村づくりへの挑戦!〜第1章電気編」
https://www.env.go.jp/content/000059999.pdf



飯田哲也(いいだてつなり)エネルギー・チェンジメーカー 
国内外で有数の自然エネルギー政策のパイオニアかつ社会イノベーター。
京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻修了。
東京大学先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。
ルンド大学(スウェーデン)客員研究員、21世紀のための自然エネルギー政策
ネットワーク(REN21)理事世界風力エネルギー協会アドバイザーなど国内外で
自然エネルギーに関わる営利・非営利の様々な機関・ネットワークの要職を務めつつ
国や地方自治体の審議会委員等を歴任。
「北欧のエネルギーデモクラシー」「自然エネルギー政策イノべーション」など著書多数。
1959年山口県生まれ

 

 

 

 

 

 


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